ランニングにおけるスポーツ障害は、足底筋膜炎、腸脛靭帯炎、鵞足炎、膝蓋靱帯炎、シンスプリント、母趾種子骨障害、膝関節・股関節・足関節・腰の痛みなどが代表的なものです。
上記のスポーツ障害は山王鍼灸整骨院に来院される患者様でも症例として見られるものばかりです。
今回はその中で私自身の経験から母趾種子骨障害を症例として取り上げてみます。
母趾種子骨障害というと分かりにくいと思いますが、足裏の親指の付け根のちょっと盛り上がった部分(母趾球)が痛みを発する疾患をいいます。
Q:なぜ足の親指の付け根(母趾種子骨周囲)が痛くなるのですか?
A:「正しいフォーム(着地)ができていないからです」とその一言で終わってしますのですが、それを分かりやすくご説明したいと思います。
まず、参考までに自分のプルフィールを恥ずかしながら記します。
メタボになりドクターからダメだしを食らったことを機に49歳から登山を始め(日本百名山、日本百高山完登)その勢いで申し込んだ東京マラソンに当選したことがきっかけでフルマラソンにも7回完走。
ベストは2019年の湘南マラソンの3時間58分。サブ4達成でマラソンレースは引退。
その後、コロナ禍もあって目標を見失い、ランニングも登山もろくにしなくなり再び80kg大台に乗ってしまいました。
2022年、これでは治療家として患者様に元気を与えられないので、太平洋から日本海まで登山で歩いた軌跡を地図上で繋げるいわゆる赤線繋ぎにチャレンジすることを決意し、そのトレーニングの一環としてランニングも再開しました。
ところが加齢も相まって7分半から8分半/kmがせいぜいで5kmも走れなくなっていました。
その後20kmを7分/km程度で走れるようになりましたが、体重増、筋力低下、フォームの悪化などのせいで母趾指種子骨障害になってしまいました。
見苦しい足で恐縮ですが、母趾球の皮膚が肥厚しタコになっているのが確認できるかと思います(写真①)
ちなみに土踏まずの足底内側の縦アーチは健側(右足)が人差し指の第1関節まで、患側(左足)は第1関節の半分までしか入らないので、アーチに左右差があり患側は偏平足気味であることも影響しているかもしれません。
ただ、登山で使用したものから最新のものまで多種多様なインソールを試してもさほど効果はみられなかったので母趾種子骨障害の主因ではないことは明らかです(写真②)
ちなみに登山を始めて以来ランニングシューズもトレランシューズもインソールは交換して靴を履いているので、その効果が絶大なことは承知しているうえでの結論です。
では、主因はというとランニングフォームなのですが、長くなってしまうので、ここでは着地に焦点を当てていきます。
それを理解するには足部についての歩行のメカニズムと局所解剖を知っておくことが大切です。
まず歩行のメカニズムですが、ウィンドラス機構が働き、歩くうえ効率よく地面をとらえて円滑に進むようにできています(図①)
ざっくりいうと母趾などの足指を背屈(反らす)し足底筋膜を緊張させ足底のアーチを高めることで剛性が高まり蹴り出しの推進力を生むというしくみです。
いっぽうランニングなど走行は、着地の際に体重の3~4倍かかるというその衝撃に耐えるためトラス機構というメカニズムが働きます(図①を参照しイメージをつかんでください)
次に局所解剖としては、足裏の親指の付け根の中足骨に2つの種子骨が衝撃の緩和のために備わっていることも頭に入れておいてください(写真③④)
つまりランニングの着地の際に衝撃を受け止めるトラス機構がうまく働いていないことが種子骨にダメージを与えてしまっているのです。言い換えれば母趾が過度に背屈したまま着地すると種子骨に局所的ダメージが加わってしまうのです。
歩行とランニングでは衝撃に耐えるため着地のメカニズムが異なるのです。
試しに足指を思い切り背屈した浮き指状態のまま足踏みしてみてください。
痛いことを体感できると思いますが、これを長い時間走っていたら痛みが出るのもご理解いただけると思います。
まずは足裏の親指の付け根が痛い人は自分の足指が浮き指になっていないか確認してみてください。
患者様の中には癖になっているようで脱力した状態でも浮き指になっているケースもありました。
トップランナーはフォアフット着地、ミッドフット着地、踵着地に限らず着地の際に足指の脱力ができているからこそケガもなく長い距離を走れるのです。
歩行とランニングでは足指の背屈の角度がランニングの方が低いということは「走行と歩行の動作様式の違いが足部ウィンドラス機構におよぼす影響」(新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所)という論文でもエビデンスがあります。
つまり私の場合はいわゆる浮き指状態、言い換えれば歩行時のようなウィンドラス機構のような足指の過度な背屈が原因で母趾の種子骨に痛みが出てしまったようです。
これで痛みのメカニズムはご理解いただけたかと思います。
ただ、これだけが痛みの原因とは限らないので患者様ごとに鑑別していく必要があります。
【施術】
そもそもランニングにおけるスポーツ障害が起きる要因の一つにカラダの軸の真下近くに着地してないことが根本原因なので、正しいフォームに改善することが第一です。
そのうえで、浮き指に痛みの原因の一端がありそうな方は、次のステップで治療を行います。
- 着地の際、足指の脱力を意識し着地時に過度に足指が背屈した浮き指状態で着地しないよう意識付けを行い実行する
- 痛みの改善を早めるため足底筋膜や下腿に対して手技と電療法を行い、さらに必要であれば鍼治療を行う
- ①②でだいぶ痛みが改善できると思います。それでも浮き指の矯正が難しい場合はランニング時に母趾が背屈しにくいようテーピング処置を行う(写真⑤)
【効果】
私の場合はジョギングで5kmももたなかった母趾種子骨の痛みが治療により劇的に改善していきました。
1週間後にはタコも和らいできて、今ではブログに書いたように50kmのトレランをしても全く痛みがでないようになりました。
上高地~北アルプス蝶ヶ岳~松本駅(トレラン50km)
【母趾種子骨障害の要因】
- 今回取り上げたいわゆる浮き指状態での着地
- 厚底シューズに変えそれに筋力やフォームが適応できない場合
- つま先(前足部)着地に変えた場合
以上が母趾種子骨障害の要因として多くみられるケースですが、痛みのメカニズムが分かれば納得いただけると思います。
【効果の持続】
これには着地を含めたランニングフォームの改善が必要です。
私はお尻やハムストリングスを使って走ること、軸の真下近くに着地すること、腰高フォームを意識すること、足は地面を蹴らない(足首を使わない)こと、股関節で走ることなど念頭に置いてフォーム改善に取り組みました。
できたかどうかは分かりませんが今まで大腿四頭筋が張っていましたが、お尻が張るようになったことと、ロングを走っても疲れにくくなったことからいくらかフォームは改善できたかと思っています。
なので、今は母趾種子骨の痛みは完治しました。(フルマラソンレベルになったら分かりませんが)
【ご相談】
ランニングや登山で痛みがある方はお気軽にご相談ください。
自分がトップアスリートでないからこそできる治療家目線のアドバイスと施術ができると思いますので、お気軽にご相談ください。