アキレス腱炎

アキレス腱炎の鍼

1 原因

アキレス腱炎は、運動習慣のある人だけでなく、日常生活を送るすべての人に起こりうる疾患です。多くの場合は、踵(かかと)の後ろ側やアキレス腱に鈍い痛みや熱感、腫れを伴います。

歩行、階段の昇降、朝起きて最初の数歩で痛みが強くなるのが特徴です。

この痛みは、アキレス腱への過度な負荷が原因で生じます。

アキレス腱は、ランニングやジャンプなどの動作で体重の数倍もの負荷がかかるため、小さな損傷が蓄積しやすい部位です。過度な運動量、急激な運動強度の増加、不適切なシューズの使用などが引き金となります。

しかし、単に「使いすぎ」だけが原因ではありません。

身体のバランスや股関節、膝のアライメントの不良が、アキレス腱炎を引き起こす重要な要因となり得ます。

2 アキレス腱の構造

アキレス腱は、複雑な構造をしている人体で最も強靭な腱の一つです。

しかし、その強さとは裏腹に、断裂するときは完全断裂が多いのが特徴です。

アキレス腱は腓腹筋ヒラメ筋という2つの筋肉が合流して形成されます。

これらの筋肉は「下腿三頭筋」と呼ばれ、踵骨(踵の骨)につながります。

この腱は単純な一本のロープではなく、螺旋状にねじれた複数のコラーゲン線維の束で構成されており、この構造が大きな負荷に耐える強靭さをもたらしています。

腓腹筋

ヒラメ筋(上の図の腓腹筋の深層にヒラメ筋)

アキレス腱の周囲には、腱をスムーズに滑らせるための「腱周囲組織」が存在します。この組織は腱そのものを栄養し、摩擦から保護する役割を担っています。

アキレス腱の炎症の中にはアキレス腱周囲組織に炎症が起きるアキレス腱周囲炎は、アキレス腱炎より比較的早期に治ることが多いです。

一方、アキレス腱そのものに微細な変性が生じるアキレス腱炎は慢性化しやすい傾向があります。

さらに、アキレス腱とかかとの骨の間には「滑液包」という小さな袋があり、クッションの役割を果たしています。この滑液包が炎症を起こすこともあり、アキレス腱炎と似た痛みを生じます(滑液包炎)

3 アキレス腱炎の意外な事実とリスク要因

アキレス腱炎は、特定の年齢層や性別、スポーツに偏って発生するわけではありません。しかし、いくつかのリスクファクターが報告されています。

ある研究では、長距離走ランナーの約10〜15%がアキレス腱炎を経験すると報告されており、特に男性に多い傾向が見られます。また、年齢とともに腱の柔軟性が低下するため、40代以降に発症リスクが高まります。

実際に私の場合、ジョギングも登山も当院でメンテナンスしているおかげで、できることはできるのですが、アキレス腱炎の鈍い痛みに悩まされることが多々あります。

アキレス腱炎で注目すべきは、身体のアライメント(骨格の配列)がアキレス腱炎に与える影響です。

2013年の海外での研究では、足の過剰な回内(オーバープロネーション)、つまり足のアーチが内側に大きく崩れる動きが、アキレス腱への負担を増加させることが示されています。足のアーチが崩れると、かかとの骨が内側に傾き、アキレス腱がねじれて引っ張られる力が強くなります。これにより、腱の一部に局所的なストレスが集中し、炎症や損傷を引き起こすリスクが高まります。

さらに興味深いデータとして、2015年の別の研究では、脚長差があるランナーは、そうでないランナーに比べてアキレス腱炎を発症するリスクが高い可能性が示唆されています。脚長差は、骨盤の傾きや脊柱の側弯など全身のアライメントを崩し、結果として膝や足首にも不均衡な負荷をかけます。特に、短い方の脚の足は、バランスを取るために過剰に回内しやすくなり、アキレス腱への負担が大きくなると考えられています。

実際に私も幼少期に患った小児ペルテス病(大腿骨の骨頭が壊死する病気)の後遺症で1.5センチも大腿骨の長さに左右差があること、加齢による足底アーチの低下、筋力低下などの要因が重なり、アキレス腱の痛みを抱えながらもメンテナンスをして登山やランニングを行っている状況です。

参考として自分の疼痛部位(左足アキレス腱の内側が腫れています)

4 股関節と膝の異常がアキレス腱に与える影響

私自身の経験からもアキレス腱炎は足だけの問題ではない場合があることがお分かりいただけると思います。

特に、股関節はアキレス腱の健康に深く関わっています。

 (1) 股関節の機能不全

股関節は、歩行やランニングの際に体重の多くを支え、推進力を生み出す中心的な関節です。もし股関節の可動域が制限されたり、筋力が低下したりすると、その役割を補うために、膝や足首、そしてアキレス腱への負担が増加します。例えば、股関節の伸展(後ろに蹴り出す動き)が不十分だと、蹴り出しの力を主に足首とふくらはぎが担い、アキレス腱へのストレスが過剰になります。

また、股関節の過内旋、過外旋、ケガ、病気、側弯、不良姿勢などで足の長さに左右差がある際には股関節→膝関節→足関節と影響し足のアーチがうまく機能せずアキレス腱に負担がかかってしまいます。

(2) 膝のアライメント不良

 膝関節は、股関節と足首をつなぐ重要な中間地点です。X脚O脚といった膝のアライメント不良は、歩行やランニングの際に下腿(すね)の骨が不自然な角度で動く原因となります。これにより、アキレス腱にねじれや横方向へのストレスが加わり、繰り返し負荷がかかることで炎症を引き起こす可能性が高まります。

これらのアライメントの問題は、小児ペルテス病などの病気やケガ以外にも、普段の姿勢、生活習慣によって生じることがあります。

表面的なアキレス腱の痛みだけでなく、根本的な原因である股関節や膝の状態を評価することが、再発防止のために非常に重要となります。

5 当院の施術

 (1)鍼治療

① 痛みの緩和と血流促進

炎症を起こしているアキレス腱、アキレス腱周囲、関連する筋肉(下腿三頭筋など)に鍼を施すことで血行を促進し、組織の修復を早めます。

また、鍼の刺激は、痛みを伝える神経経路に作用し、鎮痛効果をもたらします。

これにより、痛みが軽減され、歩行が楽になることが期待できます。

② 筋肉と筋膜のバランス調整

 アキレス腱炎の背景には、ふくらはぎの筋肉の過緊張や、股関節・太ももの筋肉のアンバランスが隠れていることが少なくありません。

鍼治療では、痛みのある部位だけでなく、関連する全身の筋肉や筋膜にアプローチし、硬くなった筋肉を緩め、身体全体のバランスを整えます。特に、股関節や膝のアライメント不良が原因でアキレス腱に負担がかかっている場合、これらの部位の筋肉を調整することで、足への負担を軽減します。

③ 自然治癒力の向上

 鍼灸は、身体が本来持っている自然治癒力を高めることを目指す治療法です。局所的な治療だけでなく、全身の気血の流れを整えることで、身体のホメオスタシス(恒常性)を回復させ、炎症が起きにくい身体へと導きます。

(2)マッサージ

アキレス腱、下腿三頭筋はもちろんのこと、足底、膝裏などをマッサージします。

(3)整体

局所のアキレス腱、下腿三頭筋を施術することはもちろんですが、治りにくい場合には、足底筋、足関節、膝関節、股関節、腰などの異常がアキレス腱へ影響を及ぼしている場合があるので、トリガーポイントになっている部位にアプローチします。

自分を例にして好結果が出た整体例をご紹介します。

足の脚長差、足底アーチの低下により、足関節回内、股関節が内旋傾向にあるため、主に大殿筋にアプローチしました。

大殿筋にアプローチした理由は、大殿筋が股関節伸展だけでなく最大の外旋筋であること、さらには腸脛靭帯を緊張(大腿の筋を緊張)させる働きがあるからです。

つまり大殿筋を強化することは、内旋気味の股関節を正常化するとともに、足関節のオーバープロネーション(過回内)を弱め、足底アーチを高めることに寄与します。

その結果、アキレス腱への負担が減り痛みが軽減しました。

また、足底アーチを高めるためことも重要なので、足指の屈曲・伸展運動は継続して行ったことも付け加えておきます。

(4) 筋トレの一例

ランニングは100%、歩行は60~70%片足で移動します。

つまりアキレス腱炎で殿筋の筋力が低下している場合は、殿筋を強化することをおススメします。

● 立位で1分間片足立ちがおススメ

筋力が弱い場合や高齢者は、片手でイスが何かを掴んで30秒を目標にやってみてください。

殿部、大腿部、足指に力が入り若干足底のアーチが高まるのを実感できると思います。

大殿筋、大腿、足指が緊張していることが分かると思います。

骨盤下がったり、体が前傾していたり、膝が曲がったりしないように注意してください。

(5) 超音波治療

炎症が一段落したら、超音波治療をする場合もあります。

6 まとめ

私もそうですがアキレス腱炎の痛みは、単なる「使いすぎ」のサインだけではなく、体のどこかに不均衡がある可能性があります。

山王鍼灸整骨院では、アキレス腱炎の根本原因から見つめ直し、患部の施術だけではなく、姿勢の改善や動作指導なども行います。今の痛みをとるだけではなく、なぜ痛みが出てしまったのか、その原因を取り除くことがアキレス腱炎の治療には重要となってきます。

アキレス腱の痛みにお悩みの方は、大森駅徒歩4分、山王鍼灸整骨院にお気軽にご相談ください。

山王鍼灸整骨院 代表 田中聡

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