膝蓋下脂肪体炎(膝のお皿の下の痛み)
膝の痛みの発生源の一つに膝蓋下脂肪体という膝のお皿の下部にある組織があげられます。
脂肪体という名とは縁遠い感じがすると思いますが、実は神経が豊富に存在するため膝の痛みの治療にはとても重要な組織です。
膝蓋下脂肪体炎はランナーに限った疾患ではありませんが、ランナーに多いため、ここでは『ランナーに多い膝痛』として膝蓋下脂肪体炎をご説明します。
膝蓋下脂肪体は、膝関節の動きを支え、衝撃吸収と安定化の役割があります。
また、膝蓋下脂肪体は膝関節とも交流があるため膝関節内の炎症の影響も出やすい組織です。
1 膝蓋下脂肪体とは?
膝蓋下脂肪体は、膝蓋骨(膝のお皿)の下にある脂肪組織で、膝関節の動きをスムーズにするクッションであり潤滑油の役割を果たしています。この部位は非常に神経が豊富で、炎症や圧迫が起きると強い痛みを感じることがあります。
ある文献では膝に存在する組織で最も痛みを感じやすいのが膝蓋下脂肪体とも言われているほど痛みが出やすく、かつ痛みを強く感じる部位です。
ランニングのような膝を酷使する運動を続けると、膝蓋下脂肪体が過度に刺激され、炎症を引き起こすことがあります。この状態は”脂肪体炎”とも呼ばれ、ランナーに多い膝痛の原因の一つとなっています。
2 膝蓋下脂肪体の痛みの原因と症状
① 過剰なランニングや運動負荷
特に、長時間のランニングや下り坂を走ることによる膝への負担。
② 膝の過伸展
膝を正常な範囲より伸びてしまう、またその動作の繰り返しが、脂肪体を圧迫。
③ 姿勢やフォームの問題
ランニングフォームの乱れが膝周辺に余分なストレスを与える。
④ 体重増加
急激な体重増加により膝への負担が増加。
⑤ 主な症状
・膝蓋骨の下部に感じる鋭い痛み。
・膝の腫れや熱感。
・膝を伸ばしたり曲げたりする際の違和感や痛み。
これらの症状は、初期のうちに適切な対処を行わないと慢性化し、長期間ランニングの中止を余儀なくされることもあります。
3 自宅でできるセルフケア
① ストレッチ
太ももの前側(大腿四頭筋)のストレッチ(下図):膝蓋骨にかかる負荷を軽減。
太ももの裏側(ハムストリングス)のストレッチ:膝の動きをサポート。
② フォームの改善
ランニングフォームの改善も重要です。極端に重心が前後にずれていることによって大腿四頭筋(腿の前側の筋肉)への負担が増えてしまいます。
専門のトレーナーにフォームを見てもらったり、動画を撮影して確認することで、膝への負担を減らすことができます。
③ マッサージとツボ押し
膝周辺のマッサージを行うことで、血行促進と筋肉の緊張緩和が期待できます。また、膝のツボ(内膝眼、外膝眼など)を押すことで痛みの緩和効果もあります。
場所は膝のお皿の下の内側と外側です。
横から押すようにして10~20秒行いましょう。
4 予防
一度膝蓋下脂肪体の痛みを経験すると、再発するリスクが高いため、予防が非常に重要です。
① 筋力強化
膝周りだけでなく、体幹や股関節周りの筋力を強化することで、ランニング時の衝撃を分散し、膝への負担を減らすことができます。
② 運動量の調整(体重コントロール)
無理をせず、運動量や頻度を調整することも大切です。週に1日は完全休養日を設けるなど、膝を休ませる時間を意識しましょう。
③ シューズの選択
クッション性や安定性のあるランニングシューズを選ぶことで、膝への衝撃を和らげることができます。定期的にシューズの劣化状態を確認し、適切なタイミングで買い替えるようにしましょう。
近年では早く走るために改良されたシューズ(プレート入り)が流行していますが、基礎的な筋力がない場合には負担に耐えきれず膝の痛みを増強してしまう場合があるので注意が必要です。
5 当院での実際の施術
① 鍼施術
膝蓋下脂肪体の痛みでは鍼を大腿四頭筋はじめ、大腿部の筋肉に行うことが多いです。
大腿四頭筋などの筋肉が柔軟性を失うと膝のお皿や膝蓋下脂肪体への負荷が高まります。
鍼治療により筋肉の柔軟性、滑走性、関節内への血流などを改善し痛みの出ている部位の負担を減らしていきます。
一例として大腿四頭筋、大腿筋膜張筋、縫工筋などに鍼を刺入し電気刺激によって筋肉を刺激します。(図の青い部分)
膝関節の変形が顕著にある場合にはお灸や膝関節へ鍼を行い、痛みの軽減を行うこともあります。
② トリガーポイントマッサージ
膝のお皿周辺の痛みがある方に症状のある場所だけではなく、その周辺のマッサージを行うことがあります。これは痛む場所とは違う部位が原因で痛みが出現している場所『トリガーポイント』を施術しています。
膝のお皿周辺に痛みがある場合には大腿の前面(図の×部分)がトリガーポイントとなっていることが多いため、問診と検査を丁寧に行い、適切な施術を行います。
③ ストレッチ指導
セルフケアの項目にもありますが、膝周囲の痛みの改善や予防にはストレッチを行い、関節への負担を減らすことが重要です。
膝周囲の筋肉、特に大腿の前面の筋肉の多くは膝のお皿に付着します。
そのため大腿四頭筋などの筋肉の柔軟性を改善する必要があります。
④ 姿勢、動作指導
走り方など姿勢が崩れていると膝への負担は増加します。
例を挙げると立った時に骨盤が後傾している方などが該当します。
骨盤の後傾、いわゆる円背姿勢では股関節から膝に伸びている筋肉の負担が増えます。
それによって走っている際の膝のお皿にかかる負荷が増え膝周囲の痛みを増悪させてしまいます。
他にも姿勢で気をつけるポイントは様々あり、丁寧に問診を行い日常動作の中で気をつけることや、改善が必要なポイントなどをお伝えし、負担の少ない体の使い方の指導も行なっています。
6 まとめ
膝蓋下脂肪体の痛みは、ランナーにとって無視できない問題ですが、適切な対処法や予防策を実践することで改善や再発防止が可能です。日頃のセルフケアや筋力強化、正しいフォームの習得を心がけ、長く健康的なランニングライフを楽しみましょう。
また、ランナーの方はセルフケアなどの準備と走り方、トレーニング強度の調整なども大切です。
当院ではフルマラソン経験が豊富なスタッフもおります。
フォームやトレーニングについてのアドバイスができる場合もあります。
今回は膝蓋下脂肪体炎について、ランナーを例にして説明しましたが、ランナー以外の患者様でも膝の痛みに膝蓋下脂肪体が関与している場合がとても多いのが実情です。
膝の痛みに関しても、お気軽に山王鍼灸整骨院にご相談ください。
下の写真はサブ3.5ランナーの伊藤真吾先生が川内優輝選手と撮らせていただいたときのものです。
Copyright © 2018-2025 大森山王にある山王鍼灸整骨院